最近、ある集まりで中学生の息子を米国に一人で留学させたという父親に会った。彼は年間６０００万ウォン（約６００万円）を超える息子の留学費のため首が回らないと言いながらも、息子が米国の学校によく適応しているのでよかったと話した。また、息子が米国で大学まで卒業して就職し、現地で暮らすことを望んだ。すると小学生の息子がいる別の父親が「私の息子も米国で就職してほしい。１０年後に息子が就職する時には韓国に良い雇用はないはず」とし「韓国には未来がない」と語った。

彼らが韓国の未来を悲観する理由は明白だ。韓国の昨年の合計特殊出生率は０．７８で世界最低だった。結婚と子どもの必要性に対する認識が低下し、少子化は続く可能性が高い。一方、急速な高齢化で６５歳以上の人口比率は昨年の１７．５％から２０５０年には世界最高水準の３９．４％になると予想されている。米投資銀行ゴールドマンサックスによると、少子高齢化で現在世界１０位圏の韓国経済は２０５０年には１５位圏に下がり、２０６０年以降は主要国のうち唯一マイナス成長に転じるという。

少子高齢化は国民年金財政も急速に枯渇させる。国民年金財政推計専門委員会は現行制度を維持する場合、２０４１年に基金が赤字に転換し、２０５５年には底をつくと予想した。多くの青年が国民年金保険料を出しても後に年金を受ける可能性はないと考えている。経済協力開発機構（ＯＥＣＤ）は昨年「国民年金保険料率をできるだけ早期に合理的な水準に引き上げるべき」と勧告した。

しかし年金改革は進まない。尹錫悦（ユン・ソクヨル）大統領が３大改革の一つに掲げたが、行政府でなく国会主導にしたうえ、国会までが手放しにしていて、年金改革がいつ行われるかは五里霧中だ。

未来が不透明であるため、医大など雇用の安定を希望する需要が増えている。高級科学技術人材を養成するＫＡＩＳＴ（韓国科学技術院）など４大科学技術院では、過去５年間で１０００人以上の学生が中途離脱した。今年、ソウル大、延世大、高麗大の自然系列に合格しながらも登録しなかった学生は７３７人にのぼる。その大半は医大に進学したと推定される。政府が野心を持って支援策を準備した半導体学科でも登録放棄者が多かった。医大合格者のうち浪人生の比率は８０％に達することが分かった。「理工系エクソダス」「医大ブラックホール」だ。

最上位人材が医大に流れるのは国家的に深刻な問題だ。医大生の多くは卒業すれば一般医として患者を診る。患者の診察は重要だが、最上位の人材を独占するほどのものではない。医師は極めて一部を除いてバイオなど付加価値が高い産業に従事しない。韓国が世界１０位圏経済大国を維持し、良い雇用を大量に創出するには、理工系人材を多数輩出しなければいけない。

半導体・バッテリー・バイオなど未来の産業は、いかに多くの理工系人材を育成するかにかかっている。韓国経済を率いるサムスン電子、ＳＫハイニックス、ヒョンデ・起亜車、ＬＧエナジーソリューションなどが未来にもグローバル市場を主導する企業になるためには、世界的レベルの理工系人材が輸血されなければいけない。

そのためには政府の全面的な理工系支援と共に国民の意識転換が求められる。政府は最優秀人材が医大でなく理工系を志願するよう科学技術人材育成のための予算拡大、技術開発関連の税制優遇、理工系進路に対する社会的認識改善などに取り組む必要がある。小中学校から理科の授業の比率を５０％以上（現在３０％）増やし、大統領が科学技術者を要職に任命するなど理工系優待政策を持続させなければいけない。

イスラエルのペレス元大統領は回顧録『夢を見ない人間に未来はない』でイスラエルの成功の秘訣として「大きく想像しなさい。明日の知識を先に得なさい。先端技術強国のイメージを構築しなさい」と強調した。不毛の砂漠を沃土に変え、企業家精神を奨励し、世界的な創業国家に生まれ変わったイスラエルの成功は韓国の成長神話と変わらない。

韓国は戦後の荒地から１人あたりの所得３万３０００ドルの先進国に生まれ変わった。１９７０年代の２度の石油危機、９７－９８年の通貨危機、２００８年の世界金融危機などを踏んで再飛躍した。少子高齢化と米中戦略競争、不透明な未来産業は韓国の将来を見えなくしている。これを打開するためには世界的レベルの理工系人材を養成することに国家力量を集めなければいけない。

チョン・ジェホン／国際外交安保エディター