「すべてのことが夢のようだ。頭がぼうっとして、何も思い出せない。無事に戻れてうれしいという思いも実感しない」。

８日午後４時３０分、仁川（インチョン）国際空港１階の入国ゲートで会ったファンさん（２９）は顔色がよくなかった。墜落事故の衝撃から抜け出せていない表情だった。

ファンさんは夫イさん（３１）と一緒に６日、７泊９日の日程で米サンフランシスコ旅行へ向かった。しかし夫婦が乗ったアシアナ航空の旅客機（ＯＺ２１４）が着陸中に衝突事故を起こした。

一般席の最前列に座っていた夫婦は乗務員の助けを受け、真っ先に事故機を脱出した。幸い、大きなけがはなかった。打撲とかすり傷ほどだった。夫婦は米航空当局の簡単な調査を受けた後、この日、アシアナ側が準備した特別機（ＯＺ２１３４）便で帰国した。

当時の状況について、夫のイさんは「着陸前に窓の外を見ながら、機体と地面があまりにも近いと思ったが、そのまま衝突してしまった」と話した。ファンさんは「衝突の瞬間（安全ベルトを通じて）体に大きな衝撃を受けた。安全ベルトを締めていなかった人もいたが、あっという間に座席から弾き出された」と話した。火災についても「人が脱出する前、すでに機内は煙に包まれていた。もう少し遅れていれば呼吸するのも苦しくなっていたはず」と話した。これまで「乗客が脱出した後に機体に火がついた」と伝えられていたが、これとは異なる内容の証言だ。

この日、ファンさんの夫婦のほか、事故機の他の乗客９人もこの特別機に乗って帰国した。全員がある旅行会社のパッケージ商品でサンフランシスコに向かった人たちだ。

チェ・ミンジョンさん（２８）の夫婦は「着陸４、５秒前に加速する感じがした」とし「２回の衝撃があったが、特に２回目の衝撃が大きかった」と振り返った。チェさんは「２回目の衝撃前に出火したようだった」とし「機内の前方の窓に火がついているのを見た」と述べた。

別の一行はファンさんやチェさんより衝撃が大きかった。小学生の娘、大学生の息子と一緒に旅行に行った５０歳代と推定される女性は「事故当時の状況はあまり思い出せない」と話し、娘を抱きしめたまま歩いて行った。小学生の娘は無言で白いクマのぬいぐるみを抱いていた。

負傷が深刻なキム・ジウンさん（２３）、キム・イェリムさん（２０）の親戚２人（女性）は仁川空港に到着すると、すぐに待機していた救急車に移されて病院に運ばれた。イェリムさんは鼻骨と頬骨にひびが入った状態だった。飛行機から脱出し、現地の病院に運ばれるまで鼻血が止まらなかったという。ジウンさんは指と肩を骨折した。現地病院で骨折が悪化しないよう応急処置を受け、帰国飛行機に乗った。

娘と姪を迎えに来たイェリムさんの母チョン・オギュンさんは「娘は事故機を脱出してからすぐに電話をしてきたが、ずっと泣いていた。体の状態を考えると現地の病院に入院しなければならなかったが、娘が『早く韓国に戻りたい』といって帰国することになった」と伝えた。

チョンさんは、イェリンさんがサンフランシスコ現地の病院で親切な韓人医師・看護師に会い、多くの助けを受けたということも紹介した。現地の韓人医師ユ・ゴミョンさんはイェリムさんとジウンさんに自分の家で休ませた後、帰国の飛行機に乗るよう空港まで車で送ったという。看護師ミン・ヨオクさんも母チョンさんに国際電話をかけ、２人の状況を伝えながら「あまり心配しないでほしい」と安心させた。