「中国の超低価格電気自動車がホットケーキのように売れ、米国人はこれを食べてしまうだろう。結局米国の自動車産業は代償を払うことになるだろう」。

米国自動車業界が中国ＢＹＤのメキシコ戦略に緊張している。米自動車協会（ＡＡＡ）は最近の報告書で中国の電気自動車をホットケーキに例えて危機感を示した。自国の産業の損害を甘受してでも中国企業の米国進出を防ぐためには「泣いて馬謖を斬る」思いで足がかりとなるメキシコを切らなければならないという声まで出ている。

ロイター通信などが２４日に伝えたところによると、ＡＡＡは「中国政府の保護と資金支援を受けた値段の安い中国車が米国市場に導入されれば米国の自動車産業は絶滅の危機に瀕するだろう。中国車に開いているメキシコのバックドアを閉鎖しなければならない」と主張した。

メキシコは安い賃金と豊富な労働力を基に米国産業界の生産基地となっている。米国が米国・メキシコ・カナダ協定（ＵＳＭＣＡ）を結んでインフレ抑制法の恩恵を受けられるようにしたのもメキシコが自国の競争相手にならないだろうという判断のためだった。

米ゼネラルモーターズ（ＧＭ）とフォードが工場を建て、ステランティスとテスラなども進出を推進してきた理由だ。ドイツのメルセデス・ベンツ、ＢＭＷ、日本のトヨタ、ホンダ、韓国の起亜（キア）もメキシコを米国市場に進出する足がかりとして利用した。米国が中国と半導体戦争を宣言して求めた代案もメキシコだった。大韓貿易投資振興公社（ＫＯＴＲＡ）によるとメキシコにはインテルが設計ラインを、テキサス・インスツルメンツ、スカイワークスなどが後工程ラインを運営中だ。

◇中国の進出構想に…米「バックドアふさごう」

米国で「バックドアをふさごう」という主張が出てきたのは、中国ＢＹＤがメキシコ工場設立を推進してだ。中国企業は米国との「デカップリング」の局面の中でメキシコを対米輸出の迂回ルートとして積極的に活用してきた。海運分析業者のゼネタによると。昨年中国がメキシコに送ったコンテナは８８万１０００個（２０フィート基準）で、２０２２年の６８万９０００個より２７．８％増加した。フィナンシャル・タイムズは「米国への輸出ルートが狭まり、中国がコンテナ船をメキシコに回したのが原因」と分析した。米商務省によると昨年の米国の対メキシコ輸入額は４７５６億ドルで、中国の４２７２億ドルを上回った。

ＡＡＡは米国で開発と製造をすべて行った企業にだけ恩恵を与えるＩＨＭＨ法を制定して米国に輸入されるすべての車に排他的関税を課すべきなどとの主張を広げているところだ。また、中国を狙っては経済体制や人権カードまで取り上げた。市場経済でない国に本社を置く企業を関税優遇から排除し、供給網に含まれた強制労働防止法を厳格に適用しなければならないということだ。

米国が大統領選挙を２５０日後に控えた中でこうした「アメリカファースト戦略」は再び始動する姿だ。先に自動車産業の危機感に乗ったのは先月「自動車産業を再び米国に持ってくる」と明らかにしたトランプ前大統領だ。ここに「半導体推し」に先に立ったバイデン米大統領が加勢した。

◇韓国企業、メキシコへの依存度大きくない

韓国企業のメキシコ依存度は高くない。起亜は２０１６年からメキシコに４０万台生産可能な工場を稼動中だが、昨年の稼動率は６６．３％で２６万５０００台にすぎなかった。現代自動車グループの海外工場のうち事実上最下位だ。このほかサムスン電子は家電工場、ＬＧグループはマグナインターナショナルと合弁したＬＧマグナの電装工場などを運営中だ。

代わりに米工場の稼動スケジュールを繰り上げている。現代自動車はジョージア州の電気自動車工場を予定より繰り上げ１０月から稼動する計画だ。サムスン電子は米テキサス州テイラー市にファウンドリー（半導体委託生産）工場の稼動を近く始める。業界関係者は「現代自動車グループなど韓国企業が米国の不確実性に『正攻法』で突破するという意志を示したとみられる」と話した。

◇「米国の補助金受けられない場合も…対策立てなければ」

専門家らは韓国企業が厳しい状況に直面しかねないと予想する。通商専門家であるテックアンドトレード研究院のキム・ドゥシク常任代表は「米国産業優先育成の雰囲気が強まっている。半導体法補助金配分だけでもサムスン電子に先立ち自国企業であるグローバルファウンドリーなどに配分したが、米国が韓国企業まで競争者とみているという意味と解釈可能だ」と指摘した。その上で「結局韓国企業が米国に投資しても期待した恩恵を受けられないままスケープゴートになる可能性が大きい。同盟・連帯にあまり誘惑されず、冷静に生き残る戦略を立てなければならない」と付け加えた。