猛烈な寒さが猛威を振るった昨年１２月２５日、クリスマスの午後８時。仁川（インチョン）空港の入国フロアに４０代半ばの男性とその一行が現れた。彼らの最終目的地は会社と自宅のある世宗（セジョン）市。予約してあったミニバスに乗って約２時間、真夜中の高速道路を走っている間、バスの中には沈黙が流れた。

男性は約３０時間前には地球の反対側の南緯２度、アマゾン密林が始まるブラジルのアルカンタラ宇宙発射場にいた。船を１回と飛行機を３回乗り換える間、季節は３２度の真夏から氷点下１０度の真冬に変わった。男性の名前はキム・スジョン（４７）。韓国国内唯一のハイブリッド宇宙発射体スタートアップ・イノスペースの代表だ。当初、彼は１２月１９日、韓国で初めて民間宇宙ロケット「ハンビット－ＴＬＶ」を試験発射する予定だった。しかし、３回発射を試みたものの、結局ロケットを打ち上げることができなかった。ブラジル空軍が発射時間として許可した時間はたった３日。再発射するためにはエラー修正はもちろん、行政手続きを最初から改めて行わなければならなかった。次の打ち上げが可能な日程は３月。１カ月以上、赤道の暑さと湿度、蚊と戦ってきたキム代表一行は、アルカンタラから撤退せざるを得なかった。

１２日、世宗市科学技術情報通信部庁舎近くの建物に位置するイノスペースを訪れ、キム代表に会った。

――試験発射に失敗した。理由は何か。

「１２月は現地が雨季に入る時期だ。当初の打ち上げ予定日は１２月１９日午前６時だったが、前日に軍の気象台が雨の予報を発表した。それで２０日に延期したが、今回は発射４時間前にポンプ冷却用バルブに問題が発生した。意外とバルブ１つだけ交換すれば済む些細な問題だった。また、翌日の２１日午前６時に再び打ち上げ日程を決めた。今回は午前６時カウントダウンまで入ったが、発射１０秒前に異常が感知されて自動的に止まった。現地の発射場安全管理システムと韓国の発射体運営システム間のネットワークに問題があったためだった。ブラジル空軍が許可した打ち上げ日程の最終日が２１日だったため、これ以上試みることはできなかった」

――投資家の失望が大きかったのでは。

「帰国翌日、株主懇談会を開いてすべて説明した。残念な状況だから、内心は失望があるかもしれないが、とにかく皆応援してくださっている。かえって従業員が落胆するのではないかと心配してくださる。実際、当社に投資した機関は非常に厳しく検討してきた。当社の技術力・ビジネスモデル・収益性、このような部分をよくご存知のため、よくご理解いただいている」

――今回の打ち上げ失敗から得たものがあるとすれば。

「本当に多くのことを学んだ。これまではエンジンなど発射体の開発にばかり集中してきた。打ち上げ運営については経験が全くなかった。今回、発射場運営システムとのネットワーキングの問題で発射点火ができず離陸できなかったが、現地の統制センターでブラジル側と共に作業しながら発射運営のすべての手続きを全て学んだ。発射体を開発してサービスする企業として非常に重要な部分だ」

――３月に再び打ち上げるためには、資金面の問題はないのか。

「幸い、昨年１２月にシリーズＢブリッジ投資ラウンドを終え、２００億ウォン（約２１億円）集めた。まだ比較的余裕がある。産業銀行と韓国投資パートナーズ・エトリーホールディングスのような機関が入ってきた。３月の再打ち上げは現地に発射体と発射台を置いてきたため、追加で大きな費用はかからない」

――最近、忠清南道泰安（チュンチョンナムド・テアン）の軍発射場で固体宇宙ロケット発射に成功した。発射場がなくてブラジルまで行ったのに、複雑な心境だったのでは。

「当社は固体と液体ロケットの長所を持つハイブリッドロケットだ。韓国内で多様な発射体を開発する必要がある。ハンビットは国内向けではない。開発初期の２０１９年から国内発射場がないため海外に目を向けたが、今はむしろその方が良かったと思う。最初から海外発射場を確保し、グローバル発射市場のプレーヤーになった。外国の人工衛星打ち上げの需要がすでに入ってきている。最近はノルウェーの方でも発射場を探している」

イノスペースが試みているハンビット－ＴＬＶは商用小型宇宙発射体のためのテスト用ロケットだ。２段型小型衛星発射体「ハンビットナノ」に適用される推力１５トン級ハイブリッドロケットエンジンの飛行性能検証のためのものだ。それでも、ブラジル空軍航空科学技術部（ＤＣＴＡ）が開発中の慣性航法システム「ＳＩＳＮＡＶ」を搭載した。ハンビットナノは５０キログラムの小型搭載体を高度５００キロメートルの地球の低軌道に乗せることができる。高さ１６．３メートル、直径１メートル、重量８．４トンで、１段ロケットで１５トン級ハイブリッドエンジン１個を装着している。キム代表は「今回の試験発射は宇宙市場に進出するための非常に重要な段階」とし、「３月の発射が成功すれば来年上場して商用小型宇宙発射体のハンビットナノも正式に打ち上げる計画」と話した。

訪問した世宗イノスペース本社は閑散としていた。従業員が１００人に及ぶというが、そのような雰囲気ではなかった。キム代表は「これまで従業員は昼夜を問わず大変苦労したし、１２月の打ち上げ失敗に落胆するなという意味で休暇を出した」とし、「３月の再打ち上げなど本格的な業務は１６日から再開する」と話した。韓国版スペースＸを夢見る韓国民間宇宙発射体スタートアップ・イノスペースの挑戦は再び始まった。

チェ・ジュノ／科学＆未来専門記者・論説委員