ルノー・日産・三菱アライアンスのカルロス・ゴーン元会長兼最高経営責任者（ＣＥＯ）（６８）はテスラＣＥＯのイーロン・マスク氏が登場する前までは世界で最も有名な自動車業界の人物だった。

◆ブラジル・レバノン・フランスの多文化を背景に

１９５４年ブラジルで生まれたゴーン氏は一族の故郷であるレバノンで幼少年時代を送った。レバノン・ベイルートで高校に通い、フランス・パリに留学した。高等教育機関（大学）エコール・ポリテクニークとパリ国立高等鉱業学校を卒業した後、７８年にフランスのタイヤ会社ミシュランに入社した。さまざまな工場でキャリアを築いたゴーン氏は９０年に北米法人のトップに任命された。

ゴーン氏は９６年フランス・ルノーに首席副社長として招へいされてグローバル自動車業界の関心を集めるようになった。当時ルイ・シュバイツァー会長がミシュランで経営手腕を見せたゴーン氏を後継者として目をつけて連れてきたのだ。ゴーン氏がルノーに来ると同時に手を付けたのは購入方式だった。約１０００社あった従来の部品供給メーカーを３００社余りにまず減らした。

◆赤字に陥ったルノーの黒字転換を主導

その次に生産性が落ちる工場で１万人近く構造調整を断行した。このようなやり方で自動車１台あたり５００ドル（約６万３７５０円）の原価を減らしていった。おかげで９７年まで赤字の沼に落ちていたルノーを翌年黒字化するのに成功し、９９年には歴代最大の利益を出すに至った。コストキラー（Ｌｅ　Ｃｏｓｔ　Ｋｉｌｌｅｒ）、ミスター修理工（Ｍｒ．Ｆｉｘ　Ｉｔ）というニックネームまで得た。

さらに大きな機会がやってきた。９７～９８年アジア金融危機で経営難に陥っていた日本の日産がルノーにＳＯＳを打ちながらだ。結局、９９年にＭ＆Ａ（企業の合併・買収）方式ではない株式対等交換形態で同盟（アライアンス）を結んだ。代わりに構造調整をゴーン氏に一任した。

◆日産にも構造調整の剣

「青い目の侍」に最高執行責任者（ＣＯＯ）という職責と共に全権を与えた。ゴーン氏はルノーの時と同じように供給会社を減らし、３０種類を超える自動車モデルを１０種類程度にシンプル化した。工場５カ所を閉鎖して２万人以上を解雇した。

雇用安定と元請け・下請け協力関係を大切にしていた日本製造業の伝統とは合わなかったが、ゴーン氏は自身に与えられた剣を思う存分振るった。９９年に大きな赤字を出していた日産は２０００年にはすぐに黒字に転じた。ゴーン氏は２００１年に日産ＣＥＯになった後、２００５年シュバイツァー会長がルノーから引退するとルノーのトップも同時に引き受けた。

◆ルノー・日産・三菱の会長に

２００８年からはルノー・日産アライアンス会長兼ＣＥＯという職責で活動した。２０１７年三菱の合流でルノー・日産・三菱アライアンス会長兼ＣＥＯとして世界自動車業界のスターＣＥＯとしての地位を固めた。

終わりがないも同然だったゴーン氏の成功街道は２０１８年、日本検察がゴーン氏を不正容疑で電撃逮捕してから揺れ始めた。グローバル自動車業界はゴーン氏の長期執権を人為的に防ごうとする「見えざる手」を疑った。ゴーン氏はその後、逮捕－拘束－保釈の過程を何度か経た後、２０１９年に自宅軟禁状態から脱出に成功してレバノンに逃避した。

◆日本を離れてレバノンに脱出

楽器箱に隠れて自宅から逃げたという日本メディアの悪意的な報道まで出てきたが誤報であることが分かった。さらにベイルート港で発生した大型爆発でゴーン氏の自宅が破壊されて路上生活者になったという日本発の未確認報道まで出てきた。

反面、西欧の報道機関は「２１世紀パピヨン」になったとし、逮捕などはいわれのないものだと暗示した。２５日、ＡＦＰなど外信は日本政府のインターポール共助捜査要請によりフランス捜査当局が国際逮捕令状を発行して検挙に乗り出したと報じた。

しかしウォール・ストリート・ジャーナル（ＷＳＪ）は「令状が発行されたからといってレバノンにいるゴーン氏の身辺には格別な影響はないだろう」と伝えた。