７～８坪ほどになるだろうか。小さな商店で使われるような空間はコンピュータとモニター数台、そして各種電子部品でぎっしり埋まっていた。ハンダごてまで置かれているのが電波商を連想させた。京畿道竜仁市（キョンギド・ヨンインシ）のある事務室の風景だ。ハン・ミンホン元高麗（コリョ）大学産業工学科教授がリタイアした後に個人研究をしている所だ。

ハン教授は韓国の自動運転車分野の先駆者だ。彼を思い出したのはこの前の新聞を見てだった。記事の見出しは「８年後に京釜（キョンブ）高速道路で世界初の全面自動運転」。韓国政府が「未来車産業国家ビジョン宣言式」で宣言した内容だった。読んだ瞬間に１９９５年と昨年の２度ハン教授に会った記憶がよみがえった。

彼は２６年前の９３年にすでに自動運転車を作りソウル都心での走行に成功した。昨年夏に中央日報を通じて紹介された話だ。ところでそれがすべてではない。２年後の９５年にハン教授はＫＢＳ「９時ニュース」に登場した。「時速１００キロメートルの無人車」という内容だった。旧アジア自動車の「ロクスタ」を改造した自動運転車が京釜高速道路で特定車線に沿って走る姿が放映された。ハン教授は運転台とペダルから手足を離しただけでなく、運転席の背もたれを後ろに倒して腕枕をしながら横になることさえした。同乗した記者はこのように話した。「運転して疲れたら横になって寝てもかまわない、夢の自動車が出現する日は遠くない」。

「遠くない」という予言ははずれた。はずれるほかなかった事情がある。ハン教授はもともと米テキサス州立大学教授として在職し無人潜水艇を研究していた。米国防総省傘下の国防高等研究計画局（ＤＡＲＰＡ）のプロジェクトだった。８０年代後半に韓国に戻り無人自動車研究に方向を変えた。９３年に初めてソウル市内での自動運転に成功した。いまは撤去された清渓（チョンゲ）高架道路から出発し、漢南（ハンナム）大橋を経て汝矣島（ヨイド）の６３ビルディングまで約１７キロメートルを走った。続けて京釜高速道路まで走った。成果を国際学界に発表すると、世界最高の自動車メーカーだったドイツのベンツとフォルクスワーゲンが訪ねてきたという。

しかしそこまでだった。研究開発を継続するため韓国政府にプロジェクトを提案したが脱落した。拒否された理由を覚えているかとハン教授に尋ねた。「私にわかりますか。審査した人たちが知っているだろう」。その後は月給から自動運転車の研究を少しずつ継続した。研究費が支援される別のプロジェクトをしながらだった。これでは推進力が落ちるほかない。韓国の自動運転車開発はこうして「失われた２０年」に入り込んだ。

韓国での研究が本格的に再始動したのは２０１０年代半ばになってからだ。グーグルの無人自動車デモに刺激された。だがいまは遅れを取りせっせと追いかけて行かなければならない境遇だ。今年上半期にグローバル調査企業が発表した自動運転車技術ランキングで韓国企業は１０位以内にどこも名前を上げることができなかった。現代自動車は１５位だった。この秋になり現代自動車がアプティブやベロダインのような海外トップクラスの企業などと提携し格差に追いつく基盤を設けた。

ハン教授は１０年ほど前に定年退職した後も研究を継続している。自動運転車用ソフトウェアと制御機器をアップグレードして試験走行をする。自動運転車とは別に「運転中居眠り防止めがね」も開発した。まぶたがやや長い時間閉じていたり、頭が通常の角度より大きく落ち込んでいるのを感知し警告音を出すめがねだ。８０歳を目前にした現在でも冷めない研究熱だ。

もしハン教授が全盛期に研究費支援を受け続けていたならどうだっただろうか。２０１４年にノーベル物理学賞を受賞した日本の中村修二氏は当初中小化学企業で働いていた。社長の黙々とした支援の下、９０年代初めに効率の高い青色ＬＥＤを発明し結局ノーベル賞を受賞した（後にわずかな褒賞のため中村氏が会社と袂を分かってはいる）。９０年代の日本の中小企業はそのように根気よく研究を支援してＬＥＤの火を灯し、韓国政府は自動運転車開発のエンジンを止めてしまった。

韓国はいままた未来自動運転車市場に挑戦状を差し出した。政府は未来自動車部品・素材・装備に２兆２０００億ウォンを注ぎ込むという。するとすでに正反対の心配が出ている。根拠は１～２年前出回ったうわさだ。「自動運転車専門メーカーがいる。いくつかの研究所はここで作った自動運転車を受け取って走行デモをしては自分たちの研究成果だと包装する」というものだった。複数の教授は「うわさではなく公然の秘密」と証言した。過去には宝石を見違えて問題になり、いまは疑われる研究に国の金がばらまかれるかと心配だ。とにかく税金が漏れる音が聞こえないようしてみることだ。

クォン・ヒョクジュ／論説委員