父の海外勤務のため日本で小学校に通った私はアルフォンス・ドーデの短編小説「最後の授業」を日本の教科書で初めて読んだ。 小説は、1871年にドイツとの戦争で敗れたフランスがアルザス地方を奪われ、現地の学校がフランス語教育を中断しなければならない状況を扱っている。 最後のフランス語の時間、アメル先生は「母国語をしっかりと守っていれば監獄の鍵を握っているのと同じ」という言葉とともに、黒板に「フランス万歳」と書く。 1900年代初めに翻訳書で日本に紹介されたこの本は「国語の大切さを教えるのに最も適した教材」に選定され、1927年に国語教科書の教材に採択された。 後に学者らによってアルザス地方の住民はほとんどがドイツ系であり、逆にフランスの侵略でフランス語強制教育が行われたという歴史的な背景が明らかになり、86年以降、日本の教科書から一斉に姿を消した。
小学6年だった私にとって「最後の授業」は母国語の大切さを教えてくれた作品に違いなかった。 担任だった日吉先生は「国語はその国と民族の精神だ。 したがって言語を失うことはその国の精神を失うのと同じようなものだ」と私たちに話した。