「政府の純粋な動機や意志は信じる。しかし結果的に得られたものは一つもない。現政権の２年半の間に実現したものが何かあるだろうか」。企業経営者は常に政府に対して慎重な態度をとる。政府と敵に回せば生き残るのが難しいことを知っているからだ。しかしベンチャー企業協会会長のアン・ゴンジュン・クルーシャルテック代表（５４）は苦言をためらわなかった。クルーシャルテックはスマートフォンの指紋認証など生体認証ソリューション開発会社だ。

１０日、京畿道城南市板橋（パンギョ）のクルーシャルテック本社で中央日報のインタビューに応じたアン会長は「現在は我々の経済生態系が生き残るか崩れるかが決まる最も重要な時期」とし「我々の協会と協会長の私が動くべきだという責任感を感じる」と話し始めた。ベンチャー企業協会には１万４９０５社のベンチャー企業が会員として加入している。

アン会長は「現在は確実に危機」と語った。国家主導型の経済生態系が成長の限界を迎えた中、日本や中国のような競争国は速いペースで進展しているからだ。アン会長は「我々が頑張っていないというわけではない。ただ、我々が時速１００キロで走れば、ライバルは時速１１０キロ、１２０キロで走る状況」と説明した。その間、韓国の成長基盤は腐食しているというのがアン会長の診断だ。

先は長いが、規制や法規が韓国企業の足かせになっている。人件費を見てもそうだ。アン会長は「世界１位の半導体委託注文生産会社（ファウンドリー）ＴＳＭＣを保有する台湾の体感人件費は過去数年前、韓国の７０％程度だったが、今は韓国が台湾の倍になるようだ」と話した。

さらに政界は政争で歳月を送っている。ベンチャー企業の活動を支援するための「ベンチャー企業法」「ベンチャー投資促進法」は国会で１年間も眠っている。アン会長は「与野党の間で隔たりがない法なので当然通過すると思っていたが、あきれてしまう」とし「争う時は争っても国会がすべきことはしなければいけない。争うばかりの現在の状況は理解しがたい」と述べた。

しかしアン会長は大韓民国の底力を信じるという。アン会長が見る大韓民国は「規模（人口）」と「システム」を備えている。「我々は簡単に崩れない」と信じる理由だ。さらにサムスン電子や現代自動車など強力な産業基盤も強みだ。アン会長は「『製造業強国』のドイツにもない半導体企業があり、ソウルを中心に車で１時間ほどの距離に産業クラスターが構築されている」とし「これほどの環境の中でも少しずつ後退しているのが残念だ」と語った。

アン会長は企業の競争力回復に向けたアイデアも出した。答えは「大企業生態系」（民間資本、グローバル市場）と「ベンチャー生態系」（革新力、スピード）の化学的結合だ。アン会長は「大企業の力は一種の必要悪で、この力はグローバル市場でも通用する。無条件に大企業を罪人として見るのではなく、これを通じてベンチャー企業が成長すべきだ」と述べた。その代わりベンチャーと大企業の関係が現在のような「甲と乙」でなく対等なパートナーになるよう環境を形成するというのが、アン会長が考える政府の役割だ。中小ベンチャー企業も自らを弱者と見なして一部の規制の保護の中に安住する姿勢を捨てるべきだと話した

アン会長は自らを「中道的革新主義者」と表現した。経済的には分配を重視する「進歩主義者」という。現政権で大統領直属の雇用委員会の委員としても活動している。そのアン会長がインタビューの最後にこう語った。「企業生態系問題は与野党を問いただす問題ではない。経済が活性化し、人々が暮らしやすくなれば（現政権の）支持率が落ちる理由はない」。