ネガティブ大統領選挙政局は単純な攻防を超え観淫症対決に落ちぶれている。大統領候補と配偶者の通話ファイルが公開された後、これに対する攻防が相次いでいるからだ。過去の大統領選挙で見てきた時代精神論争は跡形もない。次世代に向けた巨大談論は「税金ばらまき競争」に押され姿を消した。大統領選挙をわずか４９日前にした時点としては前例のない奇異な風景だ。

本格的な録音ファイル政局は１５日にＭＢＣテレビの番組がキム・ゴンヒ氏の通話ファイルを報道して触発された。公営放送がユーチューバー（ソウルの声）とキム氏のプライベートな通話内容を報道することに対する批判世論もあったが、与党「共に民主党」関係者は「地上波視聴率５０％。今度の日曜日はこれを見ましょう」（チョン・チョル選対委メッセージ総括）として支持者の視聴を促した。１９日には李海チャン（イ・ヘチャン）元代表が登板し「大統領候補夫人であるキム・ゴンヒだけ見えない。こんな大統領選挙は初めて見る」として攻勢に参加した。

キム氏の通話録音ファイル放送に「私的対話」だとして猛反発した野党「国民の力」も大きく変わらなかった。『グッバイ、李在明』の著者張永河（チャン・ヨンハ）弁護士が民主党の李在明（イ・ジェミョン）候補の暴言録音ファイルを追加公開し応酬した。李候補が兄と妻とした通話という点でこれもまた私的な通話に当たる。「国民の力」選対本部は「張弁護士個人資格の発表」として距離を置いたが、張弁護士が同党の「李在明検証特別委」の副委員長という点から距離を置くのは矛盾という指摘が出ている。

問題は観淫症政局の出口が見えない点だ。むしろ追加攻防が拡散している。野党「開かれた民主党」の金宜謙（キム・ウィギョム）議員はこの日、「キム・ゴンヒ氏がイ・ミョンス氏（通貨録音当事者）と初対面で横になった状態で３時間いたそうだ」と主張した。「国民の力」は刑事告発の方針を明らかにした。「開かれた共感ＴＶ」のキム氏の通話ファイル追加公開をめぐる仮処分訴訟もやはりこの日開かれた。李在明候補の暴言録音をめぐっては「ＡＩディープフェイク音声ファイルを製作中という情報提供を受けた」（キム・オジュン氏）、「暴言が激しくＡＩが持ちこたえられない」（キム・ジェウォン国民の力最高委員）というネガティブ攻防が起きた。

◇今回の大統領選挙のカギは中道層、ネガティブでは投票者の心つかめない

過去の大統領選挙でもネガティブは毎回登場したが、今回のように候補と家族の私生活がすべての話題を飲み込んだことはなかった。２００７年の大統領選挙でＢＢＫ疑惑が、２０１２年の大統領選挙では朴槿恵（パク・クネ）前大統領とチェ・テミン牧師の私生活疑惑が議論されたが、大統領選挙の中心アジェンダは「経済民主化」のような巨大談論だった。非正常な状況であることを認知したように最近両党が相手に向け「泥沼選挙へ追いやろうとしている」（民主党安敏錫議員）、「ひたすらフェイクの疑惑拡散にばかり注力する」（国民の力李亮寿議員）として「ネガティブ政党」のレッテルを貼ろうとする姿も二律背反的だ。

観淫症政局の最初の原因としては両党候補らの高い非好感度が挙げられる。７日の韓国ギャラップの世論調査で李在明候補（支持率３６％）の好感度は３６％（非好感度５８％）、尹錫悦（ユン・ソクヨル）候補（支持率２６％）の好感度は２５％（非好感度６８％）だった。２０１７年４月７日の同様の調査で支持率３８％の文在寅（ムン・ジェイン）候補の好感度が４８％、支持率３３％だった安哲秀（アン・チョルス）候補の好感度が５８％を記録したのとは正反対の水準で非好感度が圧倒的だ。政治コンサルタントのパク・ソンミン氏は「両候補ともに支持して投票するファン層が不足し、必要で投票するビジョンは不足するので相手が嫌いで投票する票に依存している。そうしたことからネガティブが強調されているもの」と解釈した。

候補の能力問題も原因と議論される。明知（ミョンジ）大学政治外交学科のキム・ヒョンジュン教授は「両候補とも公約を多く出したが、核心公約が何かわからない」と話した。「イシューを提起しても有権者が候補に資格・能力・経歴に対し疑っている。過去の『盧武鉉の特権と差別のない社会』『金泳三の新韓国・文民政府』のようなビジョンは候補との一体感があったが、今回の大統領選挙はそうではない。その弱点に一発主義（ネガティブ）が食い込んでいるもの」というのがキム教授の解釈だ。

今回の大統領選挙は変動幅が激しい「中道流動性市場」だ。残る４９日間でいくらでも状況は揺れ動くことができる。イライラばかり誘発する観淫症・ネガティブ戦略で彼らの歓心を買えるか悩まなければならない。遅くなったと考えずいまからでも賢明にならなければならない。