「人生の幸福は存在しない。幸福のしん気楼が地平線上に見えるだけ」。

ロシアのプーチン大統領は６月、バイデン米大統領に会った感想を尋ねる記者らにこのように語った。ロシアの大文豪レフ・トルストイの言葉だった。会談の成果に満足していないことを表現したものと解釈された。プーチン大統領はトルストイのファンであり、よく演説に作品を引用する。プーチン大統領のそばで２０１２年から大統領顧問を務める人物の姓もトルストイ、名前はウラジーミルだ。大文豪の玄孫、すなわち５代目の子孫だ。２１日、トルストイ銅像の除幕式に出席するために訪韓したウラジーミル・トルストイ氏に会った。ウラジーミル氏は「プーチン大統領は特に『戦争と平和』を好きだ」と伝えた。銅像は中区（チュング）の「文学の家ソウル」に設置された。

トルストイの『アンナ・カレーニナ』の最初の文章は有名だ。「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」という要旨だ。トルストイ本人は夫人ソフィアとの間に１３人の子どもが生まれ、幸せな生活を送った。現在その子孫は４００人にのぼるが、その中心軸の役割をする人物が「ウラジーミル・トルストイ大統領顧問」だ。トルストイが晩年を過ごしたヤースナヤ・ポリャーナで子孫の集まりを主催する人物もウラジーミル氏だ。

ヤースナヤ・ポリャーナは現在、トルストイの聖地となっている。ウラジーミル・トルストイ氏が１９９４年にここのトルストイ博物館の館長を務めながらだ。この博物館は老若男女を問わずロシア文学徒の空間であり教育機関となった。ウラジーミル氏は最初からここの館長になろうとしたわけではない。ウラジーミル氏が９４年、ヤースナヤ・ポリャーナの森で違法な伐木が行われているという内容の記事をロシア有名日刊紙に寄稿したのがきっかけになった。ウラジーミル氏は「ヤースナヤ・ポリャーナの森を保存するために記事を書いたが、大きな話題になった」とし「当時、文化相が記事を見て館長に任命した」と伝えた。そして２０１２年に大統領顧問に任命され、現館長はウラジーミル氏の夫人エカテリーナ・トルスタヤ氏が務める。

この博物館は韓国と縁がある。ウラジーミル氏は「サムスン電子の支援を受けながら『ヤースナヤ・ポリャーナ文学賞』を毎年授賞していて、ノーベル文学賞の受賞者が賞を受けた」とし「最近、小説家の韓江（ハン・ガン）氏ら多くの優秀な韓国作家も候補に挙がっていて、数年以内に韓国人の受賞者も出てくると予想する」と話した。インタビューに同席したエカテリーナ氏は「韓国の劇団でトルストイの作品を解釈し、ヤースナヤ・ポリャーナで舞台を公演するなど、さまざまな文化交流が活発に行われることを期待する」とし「韓国からの訪問客のために（博物館の）韓国語案内文と案内パンフレットも準備した」と強調した。今回の訪韓を通じてヤースナヤ・ポリャーナ博物館と韓国プーシキンハウスの文化交流増進のための了解覚書（ＭＯＵ）も締結した。

ウラジーミル氏の活動分野は文学を越えて音楽・美術・映画から公演芸術までさまざまだ。トルストイの遺産を幅広い文化領域に拡張するのもウラジーミル氏が考える重要な役割だ。ウラジーミル氏は「トルストイの作品の魅力は人間の本性と人間関係を見抜く洞察力にある」とし「時空間を超越して依然として有効な作品世界を構築したために、映画からドラマなど幅広いジャンルで変奏されていると考える」と述べた。ウラジーミル氏本人もテレビドラマ制作を計画中という。２０２８年にトルストイ誕生２００周年を記念するためだ。ウラジーミル氏は「トルストイの人生はそれ自体がドラマ」とし「トルストイの人生と当時の歴史をそのまま表現したドラマを通じて国境を越える共感を形成したい」と強調した。