北朝鮮がミサイル試験発射をした事実が遅れて明らかになった中で金与正（キム・ヨジョン）労働党副部長の最近の対南誹謗談話が今回の事態を予告していたとの分析が出ている。金副部長は米国のブリンケン国務長官、オースティン国防長官が外相・国防相２プラス２会議のため訪韓する２日前の１５日に談話文を出し、「今後４年間、足を伸ばして寝たいのが望みなら、始めからみっともなく寝そびれる仕事を作らない方がよかろう」と警告した。奇しくも北朝鮮はこの談話を出してから最初日曜日となる２１日午前６時５０分ごろに短距離巡航ミサイル２発を黄海に向け発射した。

北朝鮮首脳部は過去に正反対の脈絡で同様の話をした。金正恩（キム・ジョンウン）国務委員長は２０１８年４月２７日の板門店（パンムンジョム）での南北首脳会談当時、「文大統領がわれわれのため国家安全保障会議（ＮＳＣ）に参加するのに明け方に寝そびれることが多かった。これからは文大統領が明け方に寝そびれることのないよう私が確認する」と話した。通常北朝鮮が深夜から早朝にかけて実施するミサイル試験発射をこれ以上はしないという趣旨だった。韓国政府消息筋は「『明け方の眠り』の意味をだれよりもよく知っている金与正氏の名義で北朝鮮がメッセージを出したことに注目すべき。北朝鮮はあらかじめ準備した通りに行動したとみられる」と指摘した。

◇「青瓦台安保室指針は別に発表」

韓国軍当局が北朝鮮の武力示威をリアルタイムで把握しながら発表しなかった背景をめぐっても議論が起きている。これまで韓国軍当局は北朝鮮の主要ミサイル挑発動向をメディアを通じすぐに公開してきた。昨年４月１４日に北朝鮮が江原道文川（カンウォンド・ムンチョン）から東側海上に短距離巡航ミサイル数発を発射した時も合同参謀本部は関連事実を当日に明らかにした。

今回も短距離巡航ミサイルの発射だったが、軍当局は米国メディアが報道し米国務省が確認した後に認める姿勢を取った。これと関連し合同参謀本部関係者は２４日、「韓米が確保した情報を分析する過程にある。北朝鮮に関連した情報はすべてを公開してはいない」と説明した。

だが韓国軍内外では「韓国軍が沈黙すれば誤解が生じる」という指摘が出ている。合同演習と２プラス２会議などでいつになく北朝鮮の動向に対し国民の懸念と関心が高い時期という点からだ。

韓国軍内外では青瓦台（チョンワデ、韓国大統領府）の意中が反映されたものという観測も出ている。韓国政府関係者は「通常合同参謀本部はミサイル発射のような敏感な対北朝鮮軍事動向はすぐに青瓦台国家安保室と国防部長官に同時に報告する。メディアを通じた対外発表は安保室の指針に従い作成するものと承知している」と打ち明けた。

これと関連し、韓米が北朝鮮の巡航ミサイル発射をめぐり「無視戦略」に出ることで調整した可能性も提起される。梨花（イファ）女子大学北朝鮮学科のパク・ウォンゴン教授は「発足後の対北朝鮮政策再検討過程で北朝鮮を無視する戦略を取ってきたことからも韓国政府の立場からも北朝鮮の低水準の挑発を公開するのは負担となる恐れがある。むしろ反応を出すと北朝鮮がそれすら利用しかねないため問題と認識していないというメッセージを与えようとしたのかもしれない」との見方を示した。その上で「バイデン政権は当分中国に集中するため北朝鮮問題がふくらまないことを願うだろう」と指摘した。

韓国政府もやはり内部的には北朝鮮の低水準のミサイル挑発に対し公開対応するのでむしろ巻き込まれると判断したという。それでもミサイル発射の非公開をめぐり国内の状況とつなげる解釈が出ている。経済社会研究院のシン・ボンチョル外交安保センター長は「政府が４月７日の補選・再選挙を控え与党に悪材料として作用する可能性がある素材を公開するのに負担を感じたもの。軍事的な判断よりは政務的な判断が先行したという印象がある」と話した。

南北・米朝関係とも進展がない状況で今後北朝鮮の挑発レベルがさらに上がる可能性を排除できなくなった。シン・ボンチョル氏は「今回の試験発射は春季挑発の始まりとみられる。来月１５日に金日成（キム・イルソン）誕生日があるだけに北朝鮮がそのままやり過ごしはしないだろう」と予想した。彼は「バイデン政権の対北朝鮮政策検討が終わればその内容をめぐっても北朝鮮の軍事的な動きがありえる」と付け加えた。