映画『それでもボクはやってない』は、日本の司法制度の問題点一つひとつ追求していく技法に誠実さがみられる。法的手続きはもちろん、弁護士をどうやって指名すればいいのかすら知らない一般人たちが経験する挫折やと不合理を、やや低いトーンで、しかし執拗に見せる。日本で日常みられる電車での痴漢を素材にしたことから意図が明確だ。ささいに見えても、生計型窃盗などと違い、公憤を促す悪質犯罪という点からだ。処罰されて当然のこの犯罪を通じて「10人の罪人を逃すとしても、1人の罪のない人を罰してはいけない」というメッセージを挑戦的に投げかける。主演の加瀬亮も好演をしたが、より印象的なのは青年の母親(もたいまさこ)だ。声を荒げることなく、無表情に近い顔で息子の裁判を見守るその姿が、法の前で感じる無力感をいっそう強く物語る。