首相を退いた後も彼女は依然として有力人物として残っている。ロシアのウクライナ侵攻後に彼女の身辺を懸念する声が出ている理由だ。彼女はしかし自身がウクライナのゼレンスキー大統領に次ぐロシアのターゲットという警告にもかかわらず首都キーウを離れずにいる。彼女は戦争への疲労から一部で言及される平和協定に対し「幻想にすぎない」と線を引いた。

◇編んだ髪が象徴、「オレンジ革命」の主人公

ティモシェンコ元首相は２００４年にウクライナの親ロシア政権崩壊を呼び起こした「オレンジ革命」の主役だ。首相時代にはプーチン大統領との単独会談も数回行った。そんな彼女は欧州の一部でウクライナがドンバス地域の一部を放棄し平和協定を締結させようとしていることをめぐり、「ウクライナが絶対受け入れることはできない措置。すべての平和協定はプーチンに次の領土争奪に向けたまた別の戦争をそそのかすことになるだろう」と話した。

彼女は「プーチンは途轍もない軍事的損失にも北大西洋条約機構（ＮＡＴＯ）内部分裂に対する希望から戦争を継続している。彼はあらゆるタブーとルールを破る準備ができており、それが彼の力の源」としながらプーチンの核爆弾使用の可能性も占った。最近ではモルドバとベラルーシ、ジョージア、カザフスタンなど近隣諸国と会った。彼女は「各国に時間を浪費せず軍事力増強を助言した。まだそのような準備ができていないならば（ロシア発の戦争に備える方法は）ＮＡＴＯ加盟国になること」と話した。

◇父に捨てられ自力で成功…オレンジ革命主導

ティモシェンコ元首相は企業家出身だ。彼女は３歳になる前に父親に捨てられ家庭環境は豊かでなかったが、特有の事業手腕により自力で財を成した。大学卒業後に縫製産業、美容協同組合などで活動し、１９８８年に始めたレンタルビデオ店事業を大型チェーンにして事業家として成功した。その後ロシアの天然ガス輸入仲介業を独占して財閥になり、フォーブスの「最も影響力ある女性１００人」に選ばれたりもした。これに対しウクライナに不利なガス輸入契約を締結したという議論もある。

彼女はウクライナで代表的な反ロシア派の政治家に挙げられる。彼女が政界に入門したのは１９９６年の総選挙で国会議員に選出されてだ。翌年にはエネルギー次官としてウクライナのエネルギー企業の不正清算を先導した。しかしクチマ大統領の権威主義統治に反発して２００２年にユーリヤ・ティモシェンコ・ブロックを結成した後国会に入城した。解任されたユシチェンコ首相とランニングメイトとして２００４年の大統領選挙に出馬し、親ロシア派与党候補のヤヌコビッチ氏の不正選挙を暴露してオレンジ革命を主導、「オレンジ姫」として世界的な注目を浴びた。ユシチェンコ大統領とともにティモシェンコ氏もウクライナ初の女性首相に就任した。

首相就任後も政治的な歩みは順調でなかった。ユシチェンコ氏の親ロシア政策をめぐり対立し２００６年に決別した。翌年から２年以上にわたり２度目の首相を務めたが、２０１０年の大統領選挙で落選し、ヤヌコビッチ氏が執権するとティモシェンコ氏は首相時代の職権乱用容疑で懲役７年を宣告された。当時国際社会はこれを政治報復とみて懸念を表明した。２０１４年２月に反政府デモの激化でヤヌコビッチ氏が亡命すると反ロシア派勢力が新たに構成したウクライナ議会の決議で釈放された。２０１９年の大統領選挙にも出馬した彼女は戦争が勃発するとかつてはライバルだったゼレンスキー大統領に対する支持を表明した。