非常な状況では非常な対処がなければいけない。今の韓国は過去に経験したことがない危機に直面している。経済・安保の２つの危機が重なって国を襲ったのは１９８７年の民主化以来初めてのようだ。安保問題を見ても米国では北朝鮮の核問題を解消するために先制打撃論が議論されている。具体的で真剣だ。北朝鮮が２０年の努力の末、６カ月あれば米国を打撃できる核兵器を実戦配備できる状況になったためだ。北朝鮮が核実戦能力を確保する前に核施設を無力化しようというのが打撃論の軸となっている。先制打撃は北朝鮮崩壊、全面戦争、南北共倒れなどの極端なシナリオを連想させる。朴槿恵（パク・クネ）大統領が最近、「金正恩（キム・ジョンウン）政権の自滅」「大規模な脱北への対応」などを強調するのも尋常でない。先制打撃論の後続シナリオと関係があるのではと推測したりもする。

未曽有の危機の前で国力の再組織が急がれる。ＴＨＡＡＤの時のように国論が分裂すれば、自滅するのは北朝鮮ではなく韓国かもしれない。私が考える非常状況での非常対処法の筆頭は朴大統領が執権勢力の指導者でなく国家全体の指導者になることだ。自ら宣言する国家指導者ではいけない。超党派的に、国民の多数が真正性を認める国家指導者でなければならない。朴大統領が政派指導者の限界から抜け出す最も確実な措置は政派的イシューを除去することだ。そのためには現在の政派的論争の真ん中にいる禹柄宇（ウ・ビョンウ）民情首席秘書官と金在水（キム・ジェス）農林畜産食品部長官を更迭する必要がある。当事者はいかなる過ちもないという。それなら、気の毒ではあるが非常事態の犠牲になって退くのも愛国だ。

大統領は人事と政策、疎通（メッセージ）で政治をする。このうち真正性を国民に知らせるうえで人事ほどのものはない。人事の要諦はタイミング、手順、インパクトだ。まずはタイミング。１カ月前に禹柄宇秘書官を更迭していれば、朴大統領は政権を揺さぶろうとする政派的抵抗勢力の攻撃に屈服した人事として羞恥心を感じただろう。その場合は押されてした人事だが、今すれば危機の瞬間に国家的問題を解決するために決心した人事となる。人事でタイミングは人事権者の主導性を左右する核心要素だ。１カ月間で状況の差を作り出したのは朴大統領の権力管理能力だ。朴大統領は政策能力、疎通能力では点数を受けられなくとも、権力の中心を手放さない集中力に関しては優れている。このような能力は権力意志、持って生まれた権力感覚があってこそ可能だ。

２つ目は手順だ。現在、禹柄宇秘書官は国会運営委国政監査の機関証人として呼び出された状態だ。立法府は禹柄宇秘書官に２１日に出席するよう通知した。しかし朴大統領は禹柄宇秘書官を国政監査の証言台に立たせるつもりはない。このままでは１０月２１日が大統領と国会、向き合って走る両列車が正面から衝突する日、三権分立の黄金率が分裂の深淵に沈む日となるだろう。このような時点に禹柄宇秘書官を新しい人に交代すれば、機関証人として出ていくことがなくなる。技術的に絶妙の手順だ。証人の出席を要求する野党に対し、禹柄宇秘書官の更迭という、より大きな贈り物をする。蒸気の圧力で爆発直前になったガス室から空気を抜くようなものだ。

金在水長官は悔しいだろう。しかし安保危機に超党対処のためなら更迭することも可能だ。特定の長官に対して国会が通過させた解任建議案を無視することは朴正熙（パク・ジョンヒ）大統領もしなかった。金在水長官をそのまま置けば、立法・行政間の葛藤要因として作用するだろう。

人事は費用がかからないインパクトの芸術だ。一つの糸口から想像もできない巨大な連鎖相乗作用が生じることもある。禹柄宇秘書官、金在水長官の更迭が小さく見えるほど不偏不党人事、与野党をまとめる挙国内閣を朴大統領が決断すればよい。人々は意外な選択に感動する。政治は感動でするものだ。野党を驚かせる国民的なドラマを作る時だ。非常事態はなぜ非常事態なのか。したくなくても出来なくてもやるしかないことをするのが、非常事態にリーダーがするべきことではないのか。

チョン・ヨンギ論説委員