豆満江を渡ってからひどい目に遭ったのは小説家キム・ハギだった。延辺を旅行中だった1996年夏、鬼に魅了されたように月明かりに濡れた青い水を踏んで豆満江に跳びこんだと、彼は回顧する。分断と未転向長期囚問題を穿鑿(せんさく)してきた作家が、北の地の咫尺(しせき)に立った感慨を処理できなかったせいなのかもしれない。その上に延辺の居酒屋を回って北朝鮮人が経営する食堂で3次会の酒を飲み終わるころだった。雨季に呼ばれて川の水は怒った海のようにどどっとあふれた。気力が尽きた彼が我に返った所は、向こう側の会寧の川沿いだった。北朝鮮人民軍1個分隊が彼の頭に銃口を狙っていた。