【コラム】韓国雇用の根幹を揺るがすトランプの関税暴走
ⓒ 中央日報/中央日報日本語版2025.04.07 14:38
「米国に工場と雇用を持ってこい」(オンショアリング)というドナルド・トランプ大統領の圧迫が強まっている。先月25日、現代(ヒョンデ)自動車グループの鄭義宣(チョン・ウィソン)会長は米国に210億ドル(約3兆円)を投資して製鉄所の建設とあわせて自動車生産設備を増大すると発表した。これに関連した雇用は1万件に達する。トランプ大統領は「私の関税政策がもたらした結果」とし「これから工場と雇用が米国の地に入ってくる」と胸を張った。なのに今月2日、「米国解放の日」としながら全世界に対して「相互関税」暴走を開始した。
ちょうどほぼ同じ時期、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)会長は中国を訪れていた。最近の販売量でテスラ(Tesla)を抜いた比亜迪(BYD)の本社を立ち寄った後、グローバル企業最高経営責任者(CEO)らと共に習近平国家主席と会った。習主席は「中国で製品を生産する外国企業にも法によって同等な機会を保障する」と話した。米中が互いに投資するように圧迫する局面で韓国の看板企業がその間で生存を模索しなければならない姿だ。
韓国企業はクジラの争いに挟まったエビのように相当期間このような米中競争構図から抜け出すのは難しそうだ。米中が覇権を巡って結果が出るまで競い合う態勢だからだ。米国が34%の高率関税爆弾を放つと、中国も間髪おかずに34%の応戦関税で対抗した。
米中どちらも退くのが難しい局面だ。中国が2049年までに米国を追い越すという「中国夢」を表明すると、米国は超党派的に中国牽制(けんせい)に出た。トランプ政府第2期の関税政策はさらに強力だった。その方向性はホワイトハウス経済諮問委員会(CEA)のスティーブン・ミラン委員長が作成した「グローバル貿易システム再構成使用者ガイド」によく表われている。
昨年11月に公開された41ページ分のこの「ミラン報告書」は従来の貿易秩序の全面的再編を要求する。米国が主導してきた過去30余年間のグローバル化はもちろんのこと、サービスや金融中心の米国経済体制がこれ以上米国の役に立たないとしながら人工知能(AI)時代の先端製造業復興を強調する。「基軸通貨国という理由で米ドル貨幣が過大評価され、その結果、慢性的貿易赤字を避けることが難しい」(トリフィンのジレンマ)は国際無秩序の定説を否定してグローバル・サプライチェーンのネットワークを米国中心に新たに組み直すべきだという主張だ。米国の負担で同盟国に国防の傘を差してやることも公正ではないということだ。ミラン報告書は関税を通じてこのような不公正を是正して根本的には高く評価された米ドル価値を調整してこそグローバル貿易不均衡を是正することができると主張している。
このような戦略を実行するための強力な手段が関税賦課を前面に出したオンショアリング政策だ。半導体はもちろん、自動車・バッテリー・医薬品に至るまで戦略物資をすべて米国で生産する方案だ。特に米国は超党派的に半導体を米国から数千キロメートル離れた韓国・台湾・中国など東北アジアから輸入する状況を変えようとしている。半導体は電子製品だけでなく先端武器にも使われる核心戦争物資であるためだ。米国が船舶製造力量を事実上喪失したことも製造業再建の切迫した理由になっている。
米国がこのように方向を定めてからかなり経つ。すでに2018年米国企業研究所(AEI)は「中国とロシアの勢力拡張に対応するには完全に新しい局面を作らなくてはならない」としながら「先端技術の保護が急がれる」と主張した。2021年3月、米国家安全保障会議(NSC)が「中国がすでにAI最強国になった」と結論を出した「AI競争力報告書」も同じ脈絡から出されたものだ。
韓国はどうすべきなのだろうか。鄭義宣会長は31兆ウォン(約3兆円)の投資計画を明らかにしながら「米国に根を下ろす」と話した。現代自動車が過去39年間で米国に3000万台近い車を売ったこともあり、そうせざるをえない側面はあるだろう。そうだとしても、韓国が起業しやすい国ならどうだろうか。全国民主労働組合総連盟(民主労総)の戦闘的闘争がなく、巨大野党の反企業・反市場規制がないなら、韓国企業は韓国国内にも工場をもっと作るのではないだろうか。
トランプ氏の関税戦争は失敗するだろうという見通しは数多くある。米国の進歩陣営ではトランプ反対デモも激化している。だが、トランプ氏はウォール街で二日間6兆ドルの時価総額が蒸発する逆風の中でも「今は金持ちになる絶好の時」として「マイウェイ」だ。これからどのような結末が待ち受けていようが、変わらない事実は米国に建った韓国工場は米国人の仕事場であるという現実だ。韓国は産業空洞化とともに雇用の根幹が揺らぐことになる。そのような未来を避けるには政界は政争を止めて企業の国内投資を誘導しなければならない。製造業を守ることができなければ雇用も逃すという非常な警戒心を持たなければならない時だ。
キム・ドンホ/論説委員