【時視各角】AI時代逆行する韓国の数学教育
ⓒ 中央日報/中央日報日本語版2025.02.17 10:08
KAISTのキム・ジョンホ教授はエヌビディアのAI半導体に使われる広帯域メモリー(HBM)の父と呼ばれる。SKハイニックスはキム教授の研究に基づいてHBM開発に成功し、AI革命の恩恵をしっかりと享受している。だが国宝級科学者であるキム教授は若い学生にはほとんど知られていない。ネイバーで検索すれば大東輿地図のキム・ジョンホ、国会議員のキム・ジョンホ、『名前を知らぬ少女』を歌った歌手のキム・ジョンホ、野球選手のキム・ジョンホは出てくるが、韓国を代表するAI半導体科学者の名前は見られない。
韓国保健社会研究院が昨年小学校高学年を相手に将来の希望を調査した結果は衝撃的だ。児童の10人中4人以上は芸能人、スポーツ選手を挙げたが、科学者を選択した児童は4.95%で、料理・飲食サービス職の6.76%より少なかった。若い学生の目には重労働で厳しいだけの科学者より芸能番組に出ている人気シェフがロールモデルである。
AI時代に最も重要な学問は数学だ。ところが韓国は2018年の高校入学生から数学教育から行列・ベクトルを抜いた。チャットGPTのような生成型AIを設計するのに行列・ベクトル理論は核心ツールとして使われる。数学がAI競争力を左右するため米国、英国、シンガポールは高校で行列を教える。
韓国で数学は大学入試の成否を左右する科目だ。学生も多くの時間と金をかける。このような努力にもかかわらず、ますます数学放棄者が増え、優秀学生の工大忌避現象は激しくなっている。今年の高校入学生から行列・ベクトルが再び導入された。だが数学の実力を高める効果をもたらすかは疑問だ。韓国の入試制度はあまりに頻繁に変わって隙間だらけだ。文理科二重志願制度をうまく利用すれば行列・ベクトルを避け難度の低い科目を組み合わせて工大に入学できる道がある。
ディープシーク突風で国家的英雄になった梁文鋒は中国で最も落伍する「5線都市」の出身だ。彼は劣悪な環境でも17歳で浙江大学コンピュータ工学科に入学した。梁文鋒は学生時代から数学、特に線型代数(行列・ベクトル)が好きだった。彼が2013年に創業した投資会社の名前を線型代数の大家であるドイツの数学者ヤコビから取ったほどだ。
中国のAI崛起は怖い。世界の大学・研究機関のAI研究論文順位10位以内に梁文鋒の母校である中国浙江大学が堂々と上がっている。米ハーバード大学、カーネギーメロン大学と英オックスフォード大学を上回る水準だ。ITの強者インド工科大学(IIT)もAI分野で韓国をリードしている。IITグワハティ校は2023年にオンライン教育プラットフォームのコセラと組んで世界の人材を対象にAIとデータサイエンスを教えている。毎学期数千人の志願者が同大学の先端プログラムを経験するために線型代数、統計、微積分の試験を受けている。
中国とインドがこのように世界トップレベルに躍り出る間に韓国の大学は退歩している。英国の国際大学評価機関QS2024の世界大学ランキングで数学分野10位圏はMIT、スタンフォードなど米国の大学とケンブリッジ、オックスフォードなど英国の大学が占めている。韓国の大学はソウル大学とKAISTを除いてほとんどが100位圏外だ。韓国の高校教育はすべて修能にだけ焦点を合わせ、AIが主導する未来の流れを逃している。学生の負担を減らすという理由から範囲(行列・ベクトル)を減らし、修能の問題は現職数学科教授でも解くのが難しいほど何度もねじって出題する。
今年の医大集中事態は極に達するものとみられる。この奇形的現象は遠からず韓国の競争力を崩壊させる災難になるかもしれない。もう数学・科学教育課程改編は教育部ではなく科学者に主導権を渡さなければならない。教育部は大学教育から手を引かなくてはならない。いくらにもならないお金を分け与えながら大学にいちいち干渉する官僚主義を破ってしまわない限り韓国の未来はさらに暗鬱になるだろう。
チョン・チョルグン/コラムニスト