だが暴力の前科１つないペン氏が、見ず知らずの人を殺害することは難しかった。最初の１年間、ペン氏はソン氏の周辺をぐるぐる歩き回るだけだった。彼は自宅がある仁川（インチョン）からソウル江西区内鉢山洞（ネバルサンドン）のソン氏の事務室まで５０回余りも訪ねて行ったが犯行を実行できなかった。キム氏は今年１月、鈍器と車内にあった電気ショック機器のようなものをペン氏に渡して「これ以上待てない」と促した。

今年３月３日、午前０時４０分。ソウル江西区内鉢山洞のＳビル周辺は静かだった。ビルのトイレの端に隠れていたペン氏は、ソン氏が３階の事務室に入ると静かに尾行して襲った。さらに激しいもみ合いの末にペン氏は、ソン氏に鈍器を奪われた。差し迫っていたペン氏は、財布の中にあった電気ショック機器をソン氏の首に突きつけた。ドシン。ソン氏が力なく倒れた。彼は倒れたソン氏を鈍器で１０回ほど殴った。

その後ペン氏はタクシーを４回も乗り換えて６０キロを逃げた。彼はあらかじめ服を隠しておいた仁川玉蓮洞（オンニョンドン）のサウナに隠れた。それから約１時間後の３日午前２時４５分ごろ、サウナから出てタクシーに乗り、仁川の清涼山（チョンニャンサン）へ向かった。証拠を消すためであった。ペン氏は事件３日後の６日、瀋陽に逃亡した。キム氏が「選挙が終わるまでしばらく中国に行ってこい」と指示したためだ。キム氏は犯行後２回にわたって逃亡資金２５０万ウォンをペン氏の知人に送った。出国前日の５日、空港近隣までペン氏を車で乗せていったのもキム氏だった。

警察はタクシーのＧＰＳなどを追跡して３月１８日、ペン氏を犯人に特定した。中国公安と協力して先月２２日にペン氏を瀋陽で捕まえた。その間にキム氏は６月４日の地方選挙で市会議員の再選に成功した。江西警察署強力チームは２４日午後、瀋陽でペン氏を引き渡され国内に強制連行した。同日、キム氏も逮捕された。彼は「ペン氏がお金を盗むためにソン氏を殺害した」として犯行を否認した。だが警察は犯行前後の公衆電話の通話内容などを証拠にキム氏を拘束した。

ペン氏は瀋陽で自身を捕まえに来たユン・ギョンヒ強力２チーム長に初めて会って泣きながら「申し訳ない」と話したという。この日ユンチーム長の携帯電話には文字メッセージ１通が届いた。自身の夫に必ず見せてくれとしながらペン氏の妻が送ってきたものだった。「事実の通り話して…死なずに生きて」。

※この記事は、警察の説明に基づき再構成したものです。


３０００億ウォン資産家殺害、ソウル市議が指図