人口１０万人強の小都市密陽（ミリャン）市に母に向かった絶叫が山と野原を濡らしている。世宗（セジョン）病院火災による死亡者３９人のうち８０代以上の超高齢者が２７人、女性高齢者が２５人だ。厳しい寒さに出棺行列に立った４０～６０代の初老の子供たちの絶叫が母を慕う切ない歌のように聞こえる。

密陽市は全国の市の中で４番目に高齢化した都市だ。中位年齢（人口を年齢順に並べ、その中央で全人口を2等分する境界点にある年齢）が５０．７歳だ（２０１５人口センサス）。昨年末を基準に２万６７１９人の高齢者が暮らしている。住民４人のうち一人が高齢者だ。世宗病院は老人病院に他ならない。患者の７０％が７０代以上だ。ここだけでなく、他の市・郡の病院も大きく変わらないだろう。ある知人は「白内障のために密陽に母をつれて市内眼科に行ったが、高齢者たちが多くて足の踏み場がなかった」と伝えた。

政府当局も世宗病院になぜそのように高齢の患者が多いのか首をかしげる。高齢化の進み具合が我々の認識をはるかに先んじているのかもしれない。高齢社会では治療（Ｃｕｒｅ）に劣らず、ケア（Ｃａｒｅ）が重要だ。ところで、韓国の事情は治療に偏っている。そこに資源を投じる。文在寅（ムン・ジェイン）ケアが代表的だ。２０２２年までに３１兆ウォン（約３兆１４２６億円）を使う。

患者の安全はケアの核心だ。病院でのけがや感染は少ないほど良い。火災は言うまでもない。韓国の治療技術は世界最高だ。中身を見ると、世界最低に近い姿が明るみに出る。世宗病院３０１号室、６０１号室はその象徴だ。世の中で２０人部屋、１８人部屋とは。軍病院以外にこのようなところがあるとは、開いた口が塞がらない。スプリンクラー一つもない老人病院とは。このような状況で感染管理、私生活保護など患者の安全を論じる価値がない。このような状況だが、世界最高を前面に出すなら真っ赤な嘘に他ならない。

安全予防は肺炎の治療と違って目には見えない。形もない。世の中で「無料安全」はない。病院１カ所にスプリンクラーを設置するには５０００万ウォン以上がかかるという。病院に直ちに備えるよう求めても可能でない。呼び水を入れてポンプを押さなければならない。予算や健康保険の財政であれ、税金減免であれ何かが必要だ。

無償福祉より安全投資が、文在寅ケアよりも安全投資がさらに貴重だ。このような発想の転換がなければ、今回も一部の補完で終われば、「密陽の母を慕う歌」が果てしなく続くだろう。

シン・ソンシク／福祉専門記者・論説委員