美しい女性が一糸纏わず白馬に乗っていく絵がある。 1989年のジョン・コリアの傑作「レディー・ゴダイヴァ」。 ゴダイヴァは、11世紀中葉の英国コヴェントリーの領主だったレオフリック伯爵の妻だった。 当時70歳の老人だったレオフリックは農奴に過酷な税金を課した。 花のような16歳のゴダイヴァは夫に税金を軽減してほしいとせがんだ。 薄情な伯爵は「裸で馬に乗って村を回ればそうする」と鼻先で笑った。 ゴダイヴァは本当にそうした。 住民はその日、窓とカーテンを閉じ、外を見なかった。 そして税金は下がった。 ゴダイヴァのヌードには美しい心と固結が感じられる。
オランダ・アムステルダムの国立美術館入口の壁面に掛けられたルーベンスの「シモンとペロ」。 一見すると春画と変わらず、不快な感情を表す観覧客も少なくない。 白髪の老いた囚人が、若くて美しい女性の胸を吸う場面だ。 しかし古代ローマ歴史家のワレリウス・マクシムスが伝える事情を聞くと頷ける。 老いた囚人は、監獄に閉じ込められて餓死の刑罰を受けることになった父シモン。 シモンの一人娘ペロは面会に行ったが、飢える父を見かねて自分の胸を出し、母乳を施した。 ペロの愛に感動したローマ当局はシモンを釈放したという話だ。 扇情的な絵が崇高な名画に変わる瞬間だ。