【コラム】伝統を守るということ…日本の先例を調べてみると
ⓒ 中央日報/中央日報日本語版2024.09.27 15:30
正座した者の休む間もない筆づかいを見つめていると、知らず知らずのうちに自分まで息を殺してしまっている。つやつやと光沢が出ている木器を片方の手に持ち、生まれたばかり赤ん坊の顔をなでるように平たい筆でゆっくりと優しく漆を重ねていく。漆器一つを完成させるのにかかる時間は2カ月。小さな木の机の前に座って漆塗りを繰り返す齊藤志保さんを11日、岩手県八幡平市の安比塗漆器工房で会った。
今年33歳。最初からこの仕事に就いたわけではなかった。若者たちが誰でもそうするように、地元を離れて都会に就職した。そんなある日、友人と話をしていて驚いた。「故郷は漆器で有名なところじゃない」。岩手は日本でも屈指の漆と漆器の産地。漆器に無関心だった自身が恥ずかしく、一方では故郷がそれほど有名だったことに改めて驚いた。故郷には寝泊まりするところさえ見つければ無料で漆器技術を伝授してくれるセンターもあった。故郷の伝統を見守ろうという考えに、悩んだ末に荷物をまとめた。当時29歳。2年間勉強をした後、漆塗り職人になった。