【コラム】監視を勧める韓国社会
ⓒ 中央日報/中央日報日本語版2020.09.16 10:32
今夏最高の納涼の瞬間は地下鉄に乗っているときにやってきた。「マスクを着用していなない乗客を見かけたら取り締まりに向かうのでOOOアプリで申告してほしい」という要旨の案内放送が流れてきたからだ。マスク着用はもちろん必須だが、隣の人を監視しろと堂々と案内放送まで流すほうがもっと怖かった。近代小説家の玄鎮健(ヒョン・ジンゴン)がこれを聞いていたなら、さしずめ『監視を勧める社会』なる作品を書いていたにちがいない。
「マスク」を検索エンジンに入力すると、オートコンプリート機能で「マスク未着用申告」が選択肢の一つとして出てくる。15日現在、あるポータルサイトには「チョティン6」というユーザーが「マスクをつけていない人を撮影して通報すれば3万ウォン(約2674円)もらえるって本当ですか」というコメントを載せた。ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)2.5段階が真っ最中だった先週、常連飲食店の社長は「商店街の店舗オーナー同士、互いに監視しようとして大変」とため息をついた。ソウルのある区庁に勤める知人は「申告報奨金をもらうためには写真をどこに送ればいいのか」という電話が殺到して本来の業務ができない状況だという。そういえば、それ以前にも「スパラッチ〔報奨金狙いでゴミ(韓国語でスレギ)の分別収集を監視する人〕など、「何とかパパラッチ」が勢力を伸ばした。監視が一つの経済活動として定着し、韓国は相互監視が金儲けの手段として認識される社会へと進化中だ。
個人情報の敏感性に対する感受性が低下しているのも問題だ。居住地と携帯電話番号を名簿に記入しなければコーヒー一杯すら買えなかった先週まで、その名簿が他人に丸見えになっている状況には当惑した。個人情報はお金だ。海外で宅配住所用紙を細かく裁断するシュレッダーが人気商品なのはすべて理由がある。フィッシング詐欺師は個人情報の豊年に歓呼しただろう。ジェンダー認知感受性だけを論じるのではない。個人情報感受性の不在は監視社会のもう一つの影だ。