先月２５日、午後３時ごろ、仁川（インチョン）国際空港第１ターミナル３階。巡察中だった仁川空港警察団のノ・ユングン警衛は椅子で横になっている外国人男性Ａさん（４８）を発見した。Ａさんが動かないのに気づいたノ警衛はＡさんに近づいた。Ａさんは真っ青な顔色で震えていた。服は尿で濡れていた。状態が深刻だと判断したノ警衛は救急車を呼び、Ａさんは仁荷（インハ）大病院に搬送された。Ａさんは新型コロナウイルス検査で陽性判定を受けるかもしれないと思って心配になった。当時、Ａさんの体温は３７．９度だった。検査の結果、Ａさんは全身衰弱であることが分かった。新型コロナ検査では陰性判定を受けた。

◆入国制限でベトナムに行けず

Ａさんの事情はこうだ。仁川空港警察団などによると、ベトナム系米国人のＡさんは２月に韓国に入国した。米国からベトナムに行くための経由地に韓国を選択した。しかし新型コロナの感染拡大でベトナム入国が制限され、計画に支障が生じた。Ａさんは入国制限が解除されるのを待って空港で野宿を始めた。野宿が長くなり、所持金がなくなった。その後、空港の飲食店で客が残したものを食べて追い出されることもあった。パン屋で食パン４個を盗んだりもした。窃盗疑惑で立件されるなどＡさんの生活は急転した。

野宿を続けていたＡさんがノ警衛の目についたのは３月末ごろだった。第１・２ターミナルを行き来して巡察業務をするノ警衛は、第１ターミナルに通るたびにＡさんがいることに注目した。何度か近づいて話しかけながら、Ａさんの事情を知ることになった。Ａさんはノ警衛に「米国にいる家族が私を嫌っている。米国ではなくベトナムに行きたい」と語った。しかし状況に進展はなく野宿が続いた。

◆ベトナムでなく米ロサンゼルスへ

結局、Ａさんの体調が先に崩れた。先月２４日、Ａさんが憔悴しているを感じたノ警衛は空港内医療支援センターにＡさんを連れていった。米国大使館にあらかじめ連絡していたため、大使館の職員も同行した。Ａさんは午後９時ごろ、点滴を受けてセンターを出た。冷や汗をずっと流していたＡさんは翌日、仁荷大病院に搬送された。出入国管理所と米大使館は論議の末、Ａさんを仁川の療養院に入院させた。療養院などによると、左足の関節に異常が生じたＡさんは下半身を使えない状態だ。脳梗塞や脳卒中も疑われ、精密検査を受ける予定だ。米大使館はＡさんの状態が回復すれば米ロサンゼルスの療養院に移す方針だ。

ノ警衛は「Ａさんはもともと精神的な健康問題があったが、体の状態まで悪化して心配になった」とし「ひとまず空港付近の療養院に入院するようにした。米国に無事に戻れるように助けたい」と話した。また「新型コロナ以降、空港で野宿する外国人２人と韓国人６人を生活安全係、空港運営サービスチームと協力し、保護施設や家族に送った」とし「Ａさんのような人がもう出てこないことを望む」と語った。