中東の砂漠一帯にはアラビアヤブチメドリが生息する。茶色の羽毛、やや小さい体のこの鳥に只者ではない面があるのを見つけたのは鳥類学者アモスジャハビだ。えさを先に手にしようと労力するどころか、他の鳥と互いに分け合うといって争うのだ。とことん利己主義でかためても生きていくのは大変な野生で、これらが「寄付天使」になろうとやきもきする理由は何か。ハジャビの解釈はこうだ。「自分、他人を手伝えるだけ能力のあるやつなんだ」、分かちあうことで社会的地位を誇示し、異性に魅力的に映ろうとする下心だというのだ。
このようにつがい選びで優位になるためのアラビアヤブチメドリの競争心は群れにも利得を与える。しかし世の中には反対の場合の方が多い。くじゃくのしっぽやヘラジカの角が代表的だ。くじゃくのしっぽが長く、華麗なほどメスがすぐにやってきて、ヘラジカの角が大きくて堅いほど決闘での勝率が高くなってより多くのメスを自分のものにできる。そんな遺伝子が次の世代へと広く広がっていくのだ。しかし長いしっぽは動作をのろくし、大きな角は木にかかって捕食者から逃げるときに邪魔だ。「もっと長くもっと大きく」という競争が、集団全体を危険に陥れるわけだ。