トーマス・クーンによれば科学の発達は、前科学→通常科学(normal science)→科学革命→また異なる科学の順序を踏む。前科学を経てある科学的パラダイムが形成されれば、そのパラダイムを共有する科学者共同体が行う科学的探求活動が通常科学、ノーマルサイエンスだ。科学革命はパラダイムの交代だ。
フントウィッツとラヴェッツは20世紀後半、ノーマルサイエンスだけでは限界に逢着し、ポスト・ノーマルサイエンス(post-normal science)の段階に入ったと主張した。「事実は不確実になり、価値は論争に包まれて、その余波は大きく、判断は至急な」状況に適用される科学だ。クローン人間、遺伝子組み換え食品、核廃棄物処理場のように不確実性と危険性が高く、社会的合意の重要な事案がこれに当たる。
ポスト・ノーマルサイエンスの大きな特徴は、科学の主体が科学専門家共同体から市民と利害集団を含む“拡張された共同体”に変わるということだ。科学的事実も伝統的実験結果だけではなく、住民の経験と知識、言論の深層報道を含んだ“拡張された事実”に変わる。科学者の活動もただ実験室に限らず、政治的妥協と対話、説得を含むものに変わる。