グレゴア・メンデル(1822~1884)が統計を扱うことができなかったら科学史は大きく変わっただろう。彼は遺伝に対する自分の仮説を証明しようとおよそ15年の間、グリンピース交配実験に縛られていた。膨大な結果を統計学的に分析し、理論の根拠とした。科学界からは特に反応はなかった。当時、生物学者たちが数学に暗かったせいだ。彼の法則は1900年には初めて価値を認められた。後代の学者たちが気付いたのはそれだけではなかった。イギリスの動物学者ウィリアム・ベイトソンは20世紀初め、メンデルの実験に操作があったことを明らかにした。メンデルは自分の理論とあまりにへだたった実験結果が出ると、これを統計から除外させてしまった。それでも全体の理論が揺れないのはその操作が数値をよりはっきりさせる線で止めたからだ。
こうした類型の学術詐欺を19世紀のイギリスの数学者チャールズ・バベッジは「料理すること」(Cooking)と表現した。仮説にぴったり合わない値をあえて取り外してしまい、結果を「おいしく」整えるという意味だ。バベッジがもっと大きく問題視したのは「整えること」(Trimming)だった。最初に期待した測定値が出るまで結果をずっと操作するのだ。こうした行動は社会統計の領域でもたびたび発見される。たいてい実務者の個人的感情が介入した場合だ。