現代の国際政治学で最も有力な命題は「民主主義国同士は戦争はしない」という命題である。いうまでもなく、18世紀末のドイツの哲学者イマニュエル・カントが「永遠平和のために」で展開した議論を発展させたものである。民主主義国が戦争に関与することは歴史的に珍しくない。しかし、1980年代にアメリカのマイケル・ドイル教授が、近代の戦争のリストを検討して、民主主義国と民主主義国とが戦争しあった事例が一件もないとの論文を発表したとき、世界の学界は大変な衝撃を受けた。ドイル教授によれば、民主主義国が戦争をするときは、相手方に民主主義国がいない場合のみなのである。