ワタリガニの季節だ。今ぐらいの時期になると、西海（ソヘ、黄海）は違法ワタリガニ漁をする中国漁船とこれを取り締まる韓国の海洋警察の戦場に変わっていた。２００８年９月、可居島（カゴド）海域で警察官のパク・ギョンジョさんが、中国船員が振り下ろしたシャベルの直撃を受けて海に落ちて亡くなった。中国からの謝罪？　なかった。韓国の外交部？　隠した。弱気な態度は相手の傲慢を呼ぶ。３年後の２０１１年１２月。仁川（インチョン）海洋警察のイ・チョンホさんが、メタンフェタミン（別名ヒロポン）まで打っていた中国船員が振り回したガラスの破片にささって命を落とした。昨年１１月、逆転劇があった。韓国政府が取り締まりの時にＭ６０機関銃など共用火器を使う「冒険」を選んだのだ。その結果はどうだろうか。ことし上半期、違法侵犯の中国漁船は実に７８％も急減した。

中国の違法ＴＨＡＡＤ（高高度ミサイル防衛）報復が６カ月過ぎた。ロッテは結局３兆ウォン（約２９６０億円）を溝に捨てて中国のロッテマート事業から撤退することにした。現代・起亜車の販売は半減した。新世界は２０年間の中国営業を終わらせて何も残さず撤退した。旅行業界も葬式が続いているかのような沈鬱な表情だ。２０兆ウォン、雇用４０万件が吹き飛んだ。だが、韓国の外交的対応はせいぜい米国に「中国をちょっと痛めつけてほしい」とお願いする程度だった。中国は微動だにせず、米国はうざがった。その渦中で、青瓦台（チョンワデ、大統領府）は「中国を世界貿易機関（ＷＴＯ）に提訴しないことにした」として尻尾を下ろした。来月６日にＷＴＯサービス貿易理事会で報復撤回を求めようとしていた計画も再検討するという。「北核問題解決のためには中国との協力が先決」という理由だったという。果たしてそうだろうか。

中国の北核対応は徹底的に米国との関係の中で動いている。今までもそうだったし、今後も変わりはない。韓国はリングの外にいる。それなのにこんな時だけ自分たちが「運転者」のふりをする。ＴＨＡＡＤを撤収しない状況で、韓国がＷＴＯへの提訴をしないからといって中国が北朝鮮への原油供給中断３０％を５０％、１００％に増やすだろうか。逆に、韓国が提訴するからといって、中国がしようとしていた北朝鮮圧迫を止めるだろうか。こういうことを指して錯覚、虚像という。外交的カードも乏しいくせに、ＷＴＯ提訴や戦術核再配備のような対中国カードをわれわれは非常にあっさりと自ら捨てているのではないか。

顔に手も当てず、あっという間に仮面を変える魔術であり芸術の中国の変面は中国外交を象徴する。２０１５年９月、朴槿恵（パク・クネ）当時大統領が天安門閲兵式に出席した時、習近平主席は最高優遇で朴大統領迎えた。感激した朴槿恵は帰国する機内で「早い期間内に韓半島（朝鮮半島）平和統一議論が始まるだろう。習主席と深い協議をした」と述べた。全員が「ああ、これからの中国の真のパートナーは韓国になるだろう」と信じた。４カ月ももたなかった。北朝鮮の４回目の核実験で朴槿恵が「難しい時に手を握るのが最上のパートナー」と述べて公開ラブコールまで送ったが習近平は電話さえも取らなかった。逆に「韓国にも責任がある」と言った。清太宗に３回跪き、９回床に頭をつけて拝礼する朝鮮時代仁祖の屈辱「三拝九叩頭」までとはいかなくても、言われてもいないのに中国の脇役を自任していてはこのように不意をつかれて驚くことになる。私はだから、ことし５月に文在寅（ムン・ジェイン）大統領の親書を携えて中国に行った特使団が、習主席の下座になるようにセッティングされた面会場で席を蹴って出てくるか、それが負担になれば配置を変えるまで控室で待っているべきだったと見る。その程度の腹積もりや気概、戦略的思考がなければ、我々はこれからもずっと中国に「キムチだけ食べているから間抜けになるんだ」「強大国に挟まった浮草の境遇」などという低質卑劣な言葉を聞着続けるほかない。「北核以降」も同じ、いやさらにひどくなるだろう。静かになった西海の海は我々に多くの示唆点を与える。

金玄基（キム・ヒョンギ）／ワシントン総局長