「ネイチャージェネティクス」は遺伝学分野で最も著名な国際ジャーナルだ。最近刊行された３月号の表紙を韓国人研究者が飾った。ソウル大学植物生産科学部の崔度一（チェ・ドイル）教授が率いる研究チームだ。彼らは世界で初めてトウガラシのゲノム地図を解読し栄光を手にした。１月に電子版にまず掲載され、その後表紙論文に選ばれた。だが、崔教授は３日、記者に「危うく中国に後頭部を殴られるところだった」と打ち明けた。遅れて研究に参入した中国の研究チームが大規模な人材・装備を投じて論文を先に発表しようとしたということだ。

崔教授チームは２０１１年から独自のトウガラシのゲノム解読に挑戦した。１３カ国の学者３００人余りと共同でトマトのゲノム地図を分析し（２０１２年完成）技術自立の必要性を痛感したからだ。

崔教授チームは昼夜分かたず研究に没頭し、国際学会が開かれるたびに進展内容を公開した。だが、昨年３月、「中国がトウガラシのゲノムを解読する」といううわさが聞こえてきた。確認してみると事実だった。中国ＢＧＩと四川省トウガラシ研究所がトウガラシのゲノムを分析し国際ジャーナル「サイエンス」に出す予定だという。ＢＧＩは国立北京ゲノム研究所として出発した世界最大の遺伝子分析企業だ。１台当たり１０億ウォンする世界最高のゲノム分析装備を１３０台も持っている。研究人材も５０００人に達する。

崔教授は、「研究成果があれば学会に報告するのが国際慣例。中国のようにこっそりと研究し他の研究チームの後頭部を叩くのは商道義に外れるもの」と批判した。崔教授チームは中国に“割り込み”されないよう急いで論文を作成して「ネイチャージェネティクス」に送った。１０日後にＢＧＩが「サイエンス」に論文掲載を拒否され「ネイチャージェネティクス」に再び提出したという話が伝えられた。「ネイチャージェネティクス」は双方に論文補完を要求し、崔教授チームは１０月末に再び論文を提出した。中国も半月後に再び論文を送ったが「ネイチャージェネティクス」は崔教授チームの手を上げた。

人材・装備を注ぎ込む中国の“人海戦術”戦略はこれが初めてではない。ノーベル賞級の研究として注目されたニュートリノ変換定数研究競争の時も同様のことがあった。２０１１年８月にソウル大学物理天文学部のキム・スボン教授チームが先に実験を始めたが、翌年３月に中国が韓国より先に「フィジカルレビューレターズ」に論文を発表した。当時中国は検出施設が８０％しか完成していない状態で秘密裏に実験をしたとわかった。韓国より３倍多い６台の検出器を使い、５倍近い２４０人の人材を投じた。崔教授は「ゲノム研究は結局人の戦いで金の戦い。中国がこのような形の研究競争を継続するならば勝ち抜くことはできない」と懸念した。