今年１月１６日、政界は本当に慌ただしかった。仁川市松島（インチョンシ・ソンド）の保育園で、ある保育士がキムチを食べなかったとして４歳の女児のほおをぶっていたＣＣＴＶ映像が公開された直後だったからだ。この日セヌリ党と新政治民主連合は先を争ってタスクフォース（ＴＦ）を作って会議を開いた。当時、与野党問わず「国民が衝撃と怒りを抑えられずにいる」〔セヌリ党・朱豪英（チュ・ホヨン）政策委議長〕だとか「ＣＣＴＶが設置されている所が２０％程度であり、法を変えてすべての保育園に設置すべきだ」〔新政治連合・白在鉉（ペク・ジェヒョン）政策委議長〕などと言った。各党会議の参席者は無力な子供たちが体験した恐怖を自分のことのように感じて憐れんだ。これまで政界が繰り返してきた「事件発生→ＴＦ発足→対策発表→うやむや」の図式が、今回は変わりそうだった。

それから４０日余り後の今月３日。国会は本会議ですべての保育園にＣＣＴＶを義務的に設置させる内容の乳幼児保育法改正案を廃棄処分にした。在席した１７１人中、賛成は８４票に過ぎなかった。反対（４２票）と棄権（４５票）を合わせた数字よりも少なかった。野党で反対・棄権（６１人）が多かったが、セヌリ党でも２７人が法案廃棄に同調した。事実上、与野党の合同作品となった計算だ。なぜこんなことになったのだろうか。４０日余りで保育園の環境がかなり変わったと議員が判断したからなのか。

ある首都圏のセヌリ党議員はこのような話を聞かせた。「この前、地域の保育園長ら数人に会った。彼らは露骨に『ＣＣＴＶ設置を義務化すれば反政府勢力になるしかない。来年が選挙でしょう？』と言った。保護者らの往来が頻繁な保育園は各種のうわさの震源地だ。そうでなくとも来年の選挙が簡単にはいかないはずなのに嫌われればさまざまな面で頭が痛い」。

保育園長の行動力には定評がある。２０１３年４月にはセヌリ党イ・ウルリョン議員（比例代表）が補助金流用など保育園の違法行為に対する取り締まりの実効性を高めようと監督公務員に司法警察権を付与する改正案を提出したが撤回したことがある。改正案に署名した地方区議員の事務室に抗議の電話が鳴り響き、該当議員が自分の名前をはずしてほしいと要請したためだ。当時、イ議員事務室の女子職員は「夜道に気を付けろ」という脅迫まで受けたという。

全国の保育園長の数は４万２０００人余りに過ぎない。だが彼らには票があり、組織がある。全国の０～４歳児は２２０万人に達する。しかしこの子供たちには票がない。憤る親たちは組織化されていない。国会議員には組織化された４万２０００人の票のほうが怖かったということだ。

セヌリ党の子供の安全ＴＦ幹事だった申宜真（シン・ウィジン）議員は４日「ＣＣＴＶ設置は最善ではなくても最低限の物理的な安全装置だ。法案通過が失敗に終わったことに責任を負う」として幹事職から退いた。彼は前日の本会議でＣＣＴＶ義務化の賛成討論に出ようとしたが党指導部が「そんな必要まであるか」といって引き止めた。セヌリ党の劉承ミン（ユ・スンミン）院内代表は４日、最高・重鎮連席会議で「乳幼児保育法通過を期待していた多くの保護者を失望させて申し訳ない」として「４月の臨時国会で意見などを取りまとめて再推進する」と話した。政界が票のために躊躇（ちゅうちょ）している間にも、保育園での児童虐待は日々増加している。当局に摘発されたケースだけで２００９年の６９件から２０１３年には２３２件と３．５倍に増えた。