かなり以前に『ムクゲの花が咲きました』というベストセラー小説があった。反日感情と感傷的な愛国主義を巧妙に刺激したこの本を、記者も興味深く読んだ。だが韓国・北朝鮮が力を合わせて日本に対して核攻撃を宣言する小説の結末は、その時も今も、現実とはかけ離れた虚構にすぎない。

同じ作家の小説が再びベストセラーになった。今度は論争のど真ん中にある高高度ミサイル防衛体制（ＴＨＡＡＤ・サード）を扱った。『ムクゲ…』とは違い、作家は小説の結末を「過激な」虚構では終えずにクエスチョンマークを残した。作家自身がサードの韓半島（朝鮮半島）の配置についての立場を決めることができなかったためだという。

作家キム・ジンミョンだけでなく、多くの国民がこの問題について困惑している。このような混乱を政府があおっている気がする。米国当局者の発言は「グアムにある砲台１台を韓国に（移動）配置することを検討している」というほどに具体的だ。中国は官・民の区別なく、機会があるたびに「サード配置は韓中関係に重大な結果を招く」というシグナルを送ってきている。それでも韓国政府は「公式でも米国と協議したことはない」としつつも「もし配置になるならば、安保と国防に役立つだろう」と遠回しに述べる。専門家の討論会やメディアを相手にした背景の説明などはよく分からない状態だ。だから国民は混乱する。

解きにくく思える問題であるほど答えは意外と簡単である。サード配置が本当に安保的に死活問題なのかを確かめてみることだ。もしそうでなければ韓国が覚悟を決めることもない。サード配置による得と損をはかりにかけてみて、損が大きければ米国に「ノーサンキュー」と言わなければならない。

もしサード配置が韓国の安保に必須ならば、顔色をうかがったりすべき事ではない。しかも韓国がなぜサードを選択するほかはないのか中国に説明して説得するという課題が残るだけだ。それがなければ、今まで戦略的疎通の土台を構築できなかったという傍証になる。中国市場だけを眺め、金を儲ける工夫ばかりしているのではなく、戦略的疎通の空間を広げて戦略的利害の共通分母を探すことを早目に急がなかればならなかったということだ。習近平政権が韓中関係に力を入れるのは、韓国の投資と技術が惜しいからではなく、彼らの対外戦略に占める韓国の価値のためだ。サード論争を通じて「安保は米国」、「経済は中国」に依存してきたという両極端的な構図がこれ以上通用しないという事実が明確になった。

対外関係に劣らず心配なことは、国内世論だ。流れ出ている言葉を総合すれば、今月下旬の韓米定例安保協議会（ＳＣＭ）を機にサード問題に対する枠組みが決まるだろうという見通しだ。どんな結論が出てこようが、国内では賛否両論に分かれて大騒ぎになるものと見られる。いかに機密が必要な安保懸案であっても、すでに小説まであれこれと情報が出てしまっているのに、政府の説明は非常に不足し、密室だけで議論が行われたことに対する代償だろう。今、このままならば中国あるいは米国を説得するどころか、自国の国民も説得できない状況だ。

イェ・ヨンジュン北京特派員