文大統領は外交舞台デビューの成功に満足しているかもしれない。しかし「酔中疾走」を警戒しなければならない。ワシントンとベルリンで明らかにした平和構想を急がずに、手のつけやすいところから一つ一つ解決していくことが重要だ。準備が整っていない相手に多すぎる提案を一度に浴びせるのはアイデアの浪費だ。北朝鮮のＩＣＢＭ発射を他人事のように話すトランプ、韓半島に対する中国の伝統的な野望を表わした習近平、具体的な損益計算もなくもうろうとした惰性で北朝鮮の肩を持つプーチン、核・ミサイルで強大国を思いのままに動かすと鼻息を荒くする金正恩…。私たちはどこに出口を見出すのだろうか。

世の中に変わらないものなどない。文大統領が、今回の首脳外交舞台で、切迫した韓半島問題を私たちの力で解決できない限界を感じたというのは良い出発だ。韓半島問題解決の運転席に座ることの意味も分かっただろう。北朝鮮・中国・ロシアを説得する戦略を緻密に立てるところから始めなければならない。バックチャンネル（裏ルート）も十分に活用しなければならない。キャンプの外に目を向ければ活用できそうな人材はたくさんいる。たとえば中国に太いパイプと強い推進力を持つ鄭徳亀（チョン・ドクグ）ＮＥＡＲ（ニア）　財団理事長、北朝鮮相手ではパク・ハンシク・ジョージア大学名誉教授とトニー・ナムグン博士がその一部だ。外交当局者は「外交は私たちがするもの」という古い考えから出るバックチャンネルの無条件排斥の態度から捨てるべきだ。北朝鮮の核・ミサイルと韓半島平和は高次方程式で解決するべき複雑な国際問題だ。米国は中国を一段と強く圧迫して、韓国は北朝鮮とひとまず対話の道を開かなければならない。

人が問題だ。ドイツのヴィリー・ブラントにはエゴン・バール、ヘルムート・コールにはホルスト・テルチクという抜群の戦略家がいたため、東方政策と統一外交の推進に成功して統一を成し遂げることができた。ヘンリー・キッシンジャーがいたからニクソンは米中関係に突破口を開いて歴史の新しい章（ｃｈａｐｔｅｒ）を開くことができた。日本でも１８９０年、稲垣満次郎という外交官が『Ｊａｐａｎ　ａｎｄ　ｔｈｅ　Ｐａｃｉｆｉｃ　ａｎｄ　ｔｈｅ　Ｊａｐａｎｅｓｅ　Ｖｉｅｗ　ｏｆ　ｔｈｅ　Ｅａｓｔｅｒｎ　Ｑｕｅｓｔｉｏｎ』という著書で、日本がオーストラリアと提携して南北シーレーンを確保する海洋国家戦略を推進しようと主張した。その地政学的ビジョンには驚くばかりだ。１９世紀末の中国中心の世界秩序の混乱期に、中国と親しくし、日本と結び、米国と連結することが朝鮮の進む道だと提案した『朝鮮策略』を書いたのは、日本駐在清国外交官、黄遵憲だった。米国務長官ジョージ・マーシャルはジョージ・ケナンを国務省政策企画局長に抜てきしてドアを一つ隔てた隣室に執務室をしつらえた。その部屋がソ連封鎖論だけなく、戦後の欧州復興の礎石を置いたマーシャルプランの産室になった。

文在寅政府は韓国にはそのような戦略家がないのか、いるのに起用しないのか、深く省察してみなければならない。垂直的官僚組織が体質化された外交参謀に果敢にメスを入れ、今の危機を高次方程式で解決していく地政学的戦略概念を持つキャンプ外の創意的な人材、外交部内のアイデアと意欲あふれる新進気鋭を４強相手の平和・統一外交戦線に総出動させることが、暗く憂鬱な韓半島に希望の光を引き入れることになるだろう。

金永熙（キム・ヨンヒ）／中央日報コラムニスト


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