『走ることについて語るときに僕の語ること』
村上春樹(60)は日本文学史上、海外に最も多くの読者を持つ作家だろう。村上が世界的な人気と知名度でノーベル文学賞候補に3度も上がった三島由紀夫(1925~1970)を凌駕する理由は、村上の意識の軸と活動舞台が狭い日本にとどまらず、ヨーロッパと米国にまたがっているからだろう。三島が侍精神と帝国主義大日本と天皇に対する忠誠に執着したプリモダン作家だとしたら、村上は外部指向的なポストモダン作家だ。村上の長編小説と短編小説では空からイワシ、アジ、ヒルが落ち(『浜辺のカフカ』)、東京の地下から人間とカエルが協力して地震を予防し(『神の子どもたちはみな踊る』)、人が壁を突き抜けて飛び回る(『ダンス・ダンス・ダンス』)超現実世界がしばしば登場する。