「市中の有名飲食店の冷麺から基準値の数百倍にのぼる大腸菌検出…」。 数年前まで、こうした記事が夏の始まりを知らせる信号弾のように新聞の社会面を飾った。 しかしこういう報道は今では姿を消している。 冷麺の汁が衛生的になったからではない。 「食品公典」から冷麺の汁の大腸菌基準値が削除されたからだ。 食品医薬品安全庁が冷麺の汁の大腸菌数を問題視しないことにしたのは、大腸菌が食中毒の原因菌ではないからだ。
実際、大腸菌ほど誤解を受けている細菌も珍しい。 漠然と「健康に悪いだろう」と考えられている。 しかし大腸菌は小腸から降りてきた食べ物を分解してビタミンKを作り、ビタミンBの吸収を助ける有益な細菌だ(キャサリン・クレン著『天才たちの科学ノート』)